耳に残る声が、一人で空回っていたのだと、そう教えた気がした



Bit Y



ダンブルドア校長の自室は温かい空気で私を迎え入れてくれる。きっとダンブルドア校長が身にまとう雰囲気が溢れ出しているからなんだろう。

ダンブルドア校長は椅子に座って読書をしていた。あまりにも静かだから、私が来たことに気付いていないのか、これじゃあ読書の邪魔をしてしまうようで悪い気がする。


「難しい本を、お読みになるのですね」


机から1メートル離れた場所から、どうしようかと迷ったけれど、邪魔にならない程度の大きさで話しかけた。私の言葉に校長はゆっくりと顔を上げて微笑んだ。


「急に呼んで悪かった さあ、椅子に座りなさい」
「あ、はい ・・・あの、私何かしてしまったのでしょうか?」


椅子に座って校長と同じ目の高さで話を始める。人と目を合わせて話すことは大事なことだと良く言うけれど、真正面からしっかりと目を見ることはこんなに難しいことなのか、さっきからすぐ視線が下へと行ってしまう。


「いや、君のお母さんが此処の卒業生でな」
「そう、みたいですね」
「今はどうしておるのか気になっての」


下へと向いた視線はどうして動揺してしまったときだけ、前を向いて相手の視線と交差してしまうのだろう。


「元気 です」
「そうか、それは良かった」


微笑むダンブルドア校長の真似をして私も笑った。


「校長室は温かくて優しい雰囲気ですね」
「何かあったらいつでも来るといい」
「ありがとうございます」


丁度そのとき、梟が部屋に入ってきて自分の用事を思い出した

(お父さんに手紙を送ろうとしていた途中だった!)

スネイプ教授に呼び止められたときに頭から吹き飛んでしまったらしい。


「校長、すみませんが、失礼しても?」
「ああ、急に呼んで悪かった」


部屋を出る時、校長が 「梟小屋の羽の先が黒い梟を使うといい」 と教えてくれた。

(校長って何でも分かるんだ)


*


無事にホグワーツに来たことを知らせるために書いておいた手紙を、校長が言ったとおりの梟に手紙を持たせて、梟には悪いけれどイギリスからフランスへの距離を飛ばせる。


「・・・さあご飯を食べよう」


梟の後ろ姿を見送って大広間へと再び足を進めた。



生徒で賑わう大広間のハッフルパフのテーブルは、常に穏やかな雰囲気を持っていると思う。その席に自分がいるのは不釣合いのように感じるけれど、この寮が一番良いと思うのも嘘じゃない。


「ハッフルパフっていいわね」
「どうしたの急に」
「私、ハッフルパフで良かったわ も居るし」


そう言ったら頬を赤くしては微笑んだ


(本当にハッフルパフで良かった)


ふと緑色のマフラーをした学生時代のお母さんの写真を思い出した。そのことを忘れるようにコップに入った水を飲み干す。


*


夕食を終えて寮に帰る途中、スネイプ教授が前から足音を響かせながら歩いてきた。 は嫌そうな顔をして私の隣に近寄る。


「最悪、一日の最後ぐらい会いたくないわ」


そう呟くに苦笑いをしながら前を見た瞬間、2メートル先の教授と目が合う、ああ、前を見なければ良かった。


「・・ぁ、 こんばんわ スネイプ教、授」


(何故だろう足が動かない)


どんどん近寄ってくる足音に耳を塞ぎたくなる。この人のことだから何も聞かなかったと言わんばかりに無視をするのだろう。


「ああ」


低い声が横を通り過ぎて耳に響いた。


(・・え?)


「何、あれ 嫌な奴!」


が睨みつけるように、小声でそう言って、足を進めたので、それにつられて動かなかった私の足が動く。


、行こっ」
「うん そう…だね」


黒は全てを隠してしまうのかもしれない。何か分からないけど。彼の、セブルス・スネイプの何かを知ってしまったような、そんな感覚が体中に走った。


(絶対返事をしないと思ったのに)






a self-centered view