「ごめんね 


それは、まだ私がフランスにいた頃の話。



Bit V



夏休みに入って、妹のセシィの魔法の勉強に付き合っていたら、リビングからガラスの割れる音がした。セシィは何があったのだと、驚いていて一階に行こうとしていたのを止めて、とりあず私が見に行くことにした。


(夫婦喧嘩なんてセシィに見せれないわ)


階段を降りていくうちにお父さんがお母さんを宥める声と、泣いているお母さんの声が聞こえてきた。夫婦喧嘩じゃないのか、けれど2人の様子はいつもとは明らかに違っていて、少し様子を見ようとドアの隣に隠れて中を少し見てみた。


「ティナス 僕は何もそこまで言ってないんだ」
「でも、それじゃぁ貴方に悪いわ!!」


(なんだやっぱ喧嘩じゃない)


「けれど、僕にはそんなことはできないよ。それに僕は構わない、だって、」
「私には無理だわ、貴方に知られてしまった以上、私はもう愛せない」


浮気でもばれたのだろうか、目の前で繰り広がれる三文芝居のような光景を、半ば呆れて見物していた。

お母さんの黒い髪が揺れるのを見て、自分の髪へのコンプレックスをふと思い出す。憧れるのはお父さんの淡い金色の髪なのに。


「貴方のお母様はこのことを知っていたのよ!?」
「けれどティナス・・っ!」
「お願いよ、ランタナ、 許して お母様が来る前に」


私のお母さん、ティナス・の旧姓はティナス・サンビタリア。
そしてお父さんはランタナ・

お母さんは普通の家より少し上の階級の娘で、お父さんは古くからの名家の跡継ぎだ。二人の出会いはイギリスで。結婚に至るまでが長く、一番の理由はお父さんのお母さん、つまり私にとってはお婆さん、その人の説得に時間が掛かり、私が生まれた後にやっと結婚を許してくれたらしい。

そのお婆さんにお母さんの浮気がばれたというのだ、きっと凄いことになるだろう。 もう見ているのもいい加減飽きたので、中に入ることにした。


「ねぇ どうしたの凄い音したけど セシィ、驚いてるよ」


割れたガラスのコップを一瞥し、テーブルに置いてあるクッキーを、セシィと食べようとお皿ごと持つ。


っ!」


いきなり大声で呼ばれて、驚いたせいで、手に持っていたお皿が落ちた。


「・・・え、何 どうしたのお母さん」


泣いて腫れた目で、私の方へと歩いてくるお母さんの様子が少し変だと思ったけれど、それよりも心配だったのは私が落としたお皿のことで、


「お母さん 足元危な・・・」
「お願い


私の目の前にいるお母さんをお父さんが肩を支えて立っている、なんて異様な光景なんだ、未だに状況が把握できない。


(セシィを行かせなくて正解だった)


「私の幸せを壊さないで」
「・・え、なに、お母さん?」


お父さんがお母さんを止める声がだんだん小さくなってきて、はっきりと聞こえているのはお母さんの声だけ。


「セシィだけなの」

「ランタナにも悪いことをしてしまったの」

「私は もう 愛せない」





「貴女を もう 愛せない」