Bit ] ベッドから降りて床に足をつけて、まだ覚めていない眼から見た風景は、ぼやけていて白く濁っているようにも見えた。 「おはよう、今日はホグズミードの日よ」 いつもは下ろしたままの髪を二つに結んだがカレンダーを指差した。今日の日付を見てみると「ホグズミード」と可愛らしい文字で書かれている。 「・・・それじゃあ、私も着替えないとね」 「そうよ、早く着替えてご飯を食べに行かないと!」 楽しそうに声を弾ませるに頷いて、適当に選んだ私服にのろのろと着替えた。 * ホグズミードに着いて、一番最初にハニーデュークス。次は通りから外れた小道のベンチで軽い昼食。周りを見回してもホグワーツの生徒の姿は殆ど見えない。まあ、小道のベンチだから人通りが少ないのは当たり前か。 「これから何処に行く?」 が最後のワッフルを口元まで寄せて私を見た。 「私、ホグズミードのこと良く分からないからに任せるわ」 「そうね、それじゃあ魔法用具店に行ってみましょうか」 大通りへと出て人込みの中を、ぶつからないように歩いた。週末ということも重なって普段よりも人の量が多いのだろう。フランスに行く前イギリスに居いたとき、つまり今から5年前に来たホグズミードと変わらない。 “ダービシュ・アンド・バングズ魔法用具店”と書かれた看板を見上げて、入ったお店の中は、名前の通り魔法の用具ばかりだ。魔法用具店だけあって、杖も数種類置かれていた。お店の奥の方へと足を進めれば、実験に使う鍋であろうそれが、ズラっと黒い艶を鈍く光らせて並べてある。 「これって学校にある鍋と同じ形ね」 「私、これ見たらスネイプが頭に浮かんだわ」 言われてみれば、と鍋を見ながら、昨日教授に聞きそびれた疑問を思い出した。 「ああっ、もうすぐ列車が来る時間だよ戻らないと!ぼーっとしてないで!」 「あ、ごめん」 ホグズミード駅を列車の中から見送って、隣で眠るを起こさないように窓を開ければ、コンパートメントに風が舞い込んだ。髪が四方八方に靡くのを手で押さえる。 (本の返却日、いつだったけ) 切り取られてしまった妖精の羽根は結局最後まで見付からない。けれど、その代わり妖精は歩くことを覚えた。焼けるような背中の痛みはすっかり癒えて、遠い空を懐かしく思いながら、ただ道を歩いたのだ。 羽根は何処へいってしまったんだろう。読み終えた後の感想はそれだった。妖精の羽根は見付からなかったのだから、妖精には必要ないいものだったと思っていいのだろうか。 (それは、少し、哀しいね) 「必要ないものなんて無いと、私は思いたいんだけどな」 お母さん、貴女もそう思ったのではないのですか? そう思っていて欲しいと思う私は我儘なのでしょうか? <|◇|> Bit第一章終了 |