「最悪、最悪だわ!」


静かに朝食をとるセブルスの隣で、この世の終わりだと言わんばかりに叫んだ後、まるで何かの呪文を言うかのごとく独り言を漏らしている。
フォークとナイフを持つ手を止めて、眉間に皺を寄せながら、怒っているというよりも呆れている表情で溜め息を吐きながら私を見るスネイプをよそに、両手で顔を覆った。


「何で、何でこんな日に限って私ったら!」


テーブルに並んでいる食事にも手をつけず、訳の分からない独り言をぶつぶつと呟きながら、いきなり席を立ち、走って大広間を出て行く彼女を目で追って、スネイプはまた深く溜め息を吐いた。彼女の行動はいつも彼の理解の枠を超えている。




弾 丸 ガ ー ル






一時間目は魔法薬学の授業。大鍋をテーブルに置いて、今日の実験に使う薬草を並べる。私とペアを組んだのはセブルス・スネイプ。


「ね、ねぇスネイプ」
「何だ」
「もしかして熱があるの?」


セブルスが一人で黙々と準備をする中、ビーカーを全く力の入らない手で拭く。私の動きの遅さに、セブルスは眉間に皺を寄せた。


、僕は早く準備を終わらせて実験に取り掛かりたいんだが」


半ば呆れ気味にセブルスが言った後、ビーカーが割れる音が教室に響いた。私が落としてしまったそれは床の上で見るも無残な姿になってしまった。驚いてその残骸を眺めていたが、はっと我に返り床にしゃがみこんだ。


「ごめんスネイプ。破片当たってない?」
「ああ」


何故か驚くように目を丸くした彼女が、朝から普段よりも様子がおかしいことは分かっていたが、ビーカーを割ってしまうくらいおかしいとは思ってもいなかった。セブルスは、破片を拾うの腕を強引に引っ張って自分と向き合わせる。


「熱があるのはそっちじゃないのか」


割れたビーカーを元の形に魔法で戻して、セブルスは私に手渡した。次は落としてしまわないように両手で受け取った。


「ねぇ、スネイプ」
「何だ」


一通り準備が終わって、席に着いたスネイプを見ながら私も席に着いた。彼の表情はいつも通り無表情で何を考えているのか分からない。もしかしたら私に対して少なからず苛立っているかもしれない。そう思うと、彼を呼んだものの、なかなか次の言葉が出てこなかった。

私の言葉に特に興味がなさそうに大鍋に薬草を入ているセブルスの手をじっと見て、私は今朝のことを思い出していた。




いつも通りの清々しい朝だった。何もおかしいことなんてない。スリザリンの寮には気が合う子が少ないっていうのもあって、一人で大広間に行くのは私にとってはいつものこと。それから、いつもと同じに席に座って、絶対に返事を返してくれないスネイプにいつもどおり、 「おはよう」と自分なりに感じの良い笑顔を浮かべて彼に声をかけた。


「ああ」


そして予想外の彼からの返事に手に持っていたフォークをテーブルに落とした。スネイプは私がフォークを落としたことを不快に思ったのか、その表情は不機嫌な色を浮かべている。


「きょ、今日は何の授業があるのかしら?」
「一時間目は魔法薬学だが」


もしスネイプが私の言葉にどんな返事であろうと、答えてくれたら笑顔で返そうと、毎日鏡の前で笑顔を練習していたこともすっかり忘れて、驚いた顔でスネイプを見たら、スネイプは一層不機嫌になったよう見えた。


「何だ、何か言いたそうな顔だな」


すこし怒気を含んだような声でスネイプは言うと、また食事を始める。私はナイフまでも手から滑り落として 、ただただ彼の横顔を見ていた。


「最悪、最悪だわ!」




(初めてまともな会話ができたのに、なんでちゃんと答えられないのよ、私の馬鹿!)





それが原因で私の一日は狂いっぱなしだ。あんな態度をとってしまったから、きっとスネイプも怒ってるはず。もしかしたら、嫌われたかもしれない。お願い、怒らないで、嫌いにならないで、そんなこと思ってももう遅い。あの状況でいきなり走って大広間を出て行った私はいつも以上に変だったに違いない。


「レポートは書き終えたのか」
「まだ」


羊皮紙にペンを滑らせるスネイプの手が好きだ。彼の動く手を見ながら、小さく深呼吸をする。膝の上で両手を強く握っていた手は少し汗ばんでいた。


「スネイプ、私は、スネイプが返事してくれて嬉しかったよ、物凄く。」


自分の羊皮紙にペンを滑らせて思わず、何て最悪な日なんだろう、そう書いたらインクが紙に滲んだ。そのせいか余計、自分が惨めに思えてくる。スネイプに話しかけるだけでも緊張して大変だというのに、一緒に実験をしている私は自分で言うのはなんだが努力家だ。それでも、今朝の失態は正直取り返しがつかない。


「君は時々五月蝿いが、一緒に実験をするのは僕は構わないと思っている」


私の好きなスネイプの手が、テーブルに伏せている自分の顔の目の前に突然現れたから、驚いてスネイプを見ると長い前髪の隙間から見える。伏せたまぶたと長い睫が凄く綺麗だった。


「あ、」


何て最悪な日なんだろう、その文字の隣に私からは逆さで、しつこい、そうセブルスの丁寧な字で書かれてあった。


「本当に銃の弾丸のように お前の口からは言葉が次々に出てくる」
「しつこいって、ひどいよスネイプ。なんか涙がでてきそう」


羊皮紙の上から動かそうとしたスネイプの手を両手で包むように強く握って頭を乗せた。冷たそうに見えて暖かいんだこの手は。


「大好き、スネイプ」


利き手を私の両手と頭に抑えられたセブルスは、空いた方の手で、頬杖をつく


、調子に乗るな」





<<


貴方の口から出てくる弾丸みたいな台詞が大好き、





08/08/14 加筆修正