僕には歌は唄えないからさ



「ねぇシリウスってば」


隣で寝転んだまま寝てしまったシリウスに、何回声を掛けても起きる気配など3分前から全くないので溜め息を吐いた。


「せっかく私と居るんだから、起きてくれてたっていいじゃない」


滅多に会えない理由は、シリウスがいつもポッター達といるから。私と会うのは大抵、授業をさぼるときに付き合せるとか、この前別れたばかりの女の子から逃げ切るための最終手段だったりとか。


「なんて都合よく使われてるのかしら、私ってば」


私がシリウスのことを好きだというのは、一目瞭然だった。おまけに、シリウス本人も知っている。まあ、最初は外見だったけれど、シリウスの女癖の悪さに酷くショックを受けて、大嫌いになった時もあった。そんな彼が私を好き勝手連れ回すようになってなんて、彼を見てただけの昔の私が見れば驚いてしまうだろう。だけど、今こんな風に隣でシリウスの寝顔を見れるのは、きっと強引なシリウスなりの優しさがあったからだと思ってる。


「あ、もうこんな時間だわ。私、聖歌隊の練習があるのに」


いい加減起きて、と身体をゆすっても起きようとしないシリウスの綺麗で整った顔も、さらさら風に靡く髪も、今の私には凄く憎たらしかった。


「もう、いいわ。私行くわ」

(ああ、今日は昨日みたいに声が裏返らないといいんだけど)


昨日の練習は今までにないくらい酷かった。友達には私のアルトの声をもっと綺麗に使ってちょうだいって言われたし、一番上手でしかも美人のスリザリンの子にも、調子が悪いのは誰にでもあることだけど迷惑かけないで、とまで言われてしまった。今日は本当にいつも通り歌えるといいのに。


「おい」
「何よシリウス。起きるのが遅すぎたわね」
「んなことよりこっち来い」


無理矢理、腕を引っ張られて、シリウスはキスをする。寝起きに良くこんな元気があるものだと、呆れながら、シリウスの肩を抑える。


「シリウス!」
「お前とキスしたら初めて会ったときのこと思い出すな」


目の前で小さく笑うシリウスを見ながら私も記憶を辿った。そうだ、確かあれは、聖歌隊の練習の帰り道。
その日も喉の調子が悪くて私の裏返った声を聴いて大声で笑った4年前のシリウスを思い出した。途中から聖歌隊に入った遅れをどうにかしようと切羽詰ってた頃だ。泣きながら廊下を歩いていた私は、さっきのようにシリウスに突然腕を引っ張られキスをされた。




「あんなのその場の気分だったくせに、女好き。」
「今日は裏返んなよ」


私の頭に手をのせてけらけらと笑うシリウスの顔を真正面から手に持っていた分厚い楽譜で軽く叩いて、聖歌隊の練習場へと足を向けた。


「大体、顔見ただけでいきなりキスなんかするか普通。いい加減気づけよ馬鹿」



そんな感じで私とシリウスの現在の関係。友達以上、恋人までは後、3曲分?





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君が多くを望まないように
僕だって多くは望まないさ
君の歌声を聞くこと以外はね





08/08/14 加筆修正