Blind love 何で片想いだと分かっていても私は懲りずに恋をするんだろう クィディッチをしているシリウスの姿は相変わらずかっこよくて、ただ眺めているだけの私の目からずっと離れない。スリザリン戦で活躍するシリウスはポッターと笑い合って、スリザリンの生徒を挑発するように飛んでいる。 「 大変」 「何?! 聞こえないわっ」 盛大な歓声に飲み込まれる私の応援する気なんて全くない気の抜けた声は、当然に聞こえてないようだ。 「シリウスを見てたら、この場から離れたい衝動に駆られちゃった」 一番後ろに座っていた正解だった、応援席から降りる。遠ざかっていく声援を聞きながら溜め息を吐いて校舎へ戻った。 クィディッチが終わればシリウスは可愛い女の子に囲まれて、困ったような声を出すくせに顔は物凄く嬉しそうだったりして、から貰ったグリフィンドールのクィディッチの選手の集合写真の中で楽しそうに笑うシリウスを指で弾いた。 「好きなんだよ こんちくしょう」 それから数時間後、寮へと帰ってきたにクィディッチの試合の結果を聞けば、そのときの様子も話してくれた。 「そっか 珍しく負けたんだ」 「スリザリンの奴ら汚い手ばっか使うのよ!」 ベッドの枕に強く拳を押し付けて、ばたばた暴れる。スリザリンの試合のときは必ずと言って良いほど不正はたくさん。それは今更どうしようも出来ないので、無視することが一番だ。 「それで、怪我人は出なかったの?」 「出たわよ! しかも、あのシリウスが!」 グリフィンドールが負けることも珍しいと思ったけれど、そうか原因はシリウスの怪我か。(何か納得) 「シリウスが居ると居ないとじゃ、だいぶん違うもんね」 「それでもグリフィンドールの実力はスリザリンの上よ、上!」 クィディッチの試合が終わった後のグリフィンドールとスリザリンは普段の何倍も険悪だと、ハッフルパフの子が言ったことを思い出す。 (その通りだ・・・) 異様にピリピリした空気が漂う大広間は物凄く静か。これじゃあ楽しく食事をしたい他の寮に申し訳ない気もする。 「私、先に寮に戻ってるね」 こんな空気の中、美味しいものも美味しく感じない。おまけに私が席を立ったらスリザリン生達は、いちいち、こっちを見てくるし いい加減止めて欲しい。 (大体私、クィディッチには興味ないのよ!) シリウスが選手ってのは凄い素敵だと思うけれど、クィディッチという競技自体には全く興味がないのだ。 「シリウスの怪我って重傷なのかな」 そう思って足を止めたら廊下がいきなり騒がしくなった。 「シリウス 大丈夫!?」 「私の寮のビーターってばシリウスに何てことをっ」 「夕食その腕で食べれそう?私でよかったら手伝いましょうか?」 「明日まで医務室で療養なんでしょう、お見舞いに行くわ!」 女子の群れがシリウスを囲むように通り過ぎていった。良く見るとネクタイの色もバラバラで、シリウスのファンは寮なんて関係ないことに驚いた。 「・・・シリウス 右腕に包帯巻いてたな」 女子の隙間から見えたシリウスの腕には白い包帯が巻かれていて、少しだけ見ることの出来た顔は、ちょっと辛そうだった。(流石にあの軍団に囲まれたらねぇ) グリフィンドールの談話室に居る人間が、いつもよりも少ないのは女子の半数がシリウスのお見舞いに行っているからだと思う。ジェームズ達は自分の友人が、困り果てている姿を想像して、これは良いひやかしのネタになるぞとソファの上で笑っていた。 「ねぇ ジェームズ、シリウスの腕って骨折なの?」 「多分ね あの高さから落ちたら骨折と思うよ ブラッジャー当てられてたし」 「・・・痛そうね それは」 その場に居なかった私でもその様子は何となく目に浮かぶ。箒から落ちるのだ、痛いに決まってる、しかもブラッジャーも当たったなんて。 「見てなかったのかい?」 「途中で帰ったの 体の調子が悪くて」 (本当は試合の後シリウスを囲む女子を見たくなかっただけなんだけど) 「こっちは腕の調子が悪い」 談話室に居るのはジェームズ達3人と私だけのはずなんだけど、頭上から聞き慣れた声がした。 「うわっ、シリウス!?」 「馬鹿っ! でけぇ声出すなっ」 私の隣にドカっと座って、シリウスは深く溜め息を吐いた後、テーブルの上に置かれたクッキーを食べる。 「スリザリンの奴が来たかと思えば次はレイブンクロー」 「何のこと?」 「女だよ女。あいつら、こっちは怪我人だっていうの五月蝿いんだよ全く」 心底嫌そうな顔をして医務室での出来事を思い出しているシリウス。まあ確かに騒がれたら誰だって迷惑極まりない。でも、シリウスの場合は、自分が都合のいい時だけ相手をすることもあって、女子からしてみれば何時自分に振り向いてくれるか、毎日がチャンスなのだ。 (恋って盲目なのよ、前なんか全然見えやしない) 「まぁそう怒るなよ 今日は寮では寝ないんだろ?」 「いや、あまりにも医務室が五月蝿いもんだから寮で寝てもいいって」 ジェームズとシリウスが話し始めると同時に私はソファから立って、のいる部屋へと階段を登る。 「おい、 今度はしっかりと俺の活躍見れよ!」 途中聞こえたシリウスの言葉に驚いて階段を踏み外しそうになった。何で試合をしていたシリウスが私が途中で居なくなったことを、知っているのか良く分からなかったけれど、今度はちゃんと最後まで試合をみようと思う・・・多分。 次の日の朝の大広間は、昨日の険悪なムードとは反対に何やら黄色い声援にも似た女子の甘ったるい声で五月蝿かった。 「・・シリウス朝から大変みたいね」 がキャラメルパンケーキをナイフで切りながら、呆れ顔でテーブルの後ろを独占している女子の群れを見た。 「私もシリウスのこと好きだけど、ああいうのは出来ないなぁ」 シリウスを囲む女子の殆どが容姿端麗な人ばかり。私は至って平凡な何処にでもいそうな背格好で、はっきり言ってあの軍団の中に入ってシリウスに見つけてもらう自信なんて一欠けらも、小さいビーズ1個分もないのだ。 (ミジンコ一匹分もないかもしれない) 大広間に響く女子の声は私が大広間を出るときもずっと響いていた。 一時間目は眠たい眠たい魔法史の授業。 後ろの席の方でシリウスは相変わらず女子に囲まれている。(俗に言うハーレム状態)この暇な時間を先生の声と、隣で寝ているの寝息をBGMにして、私は、シリウスを好きになった経緯を思い出していた。 ブラック家の長男ということで入学当初から、人の目を引いたシリウス。学年が上がると共に、あんまり聞きたくない噂もちらほら出てきた。シリウスはどうやら女好きらしい。その事実を知ったときの私といったら、シリウスのことを物凄く軽蔑した覚えがある、なんていったて純情な学生ですから。 そういえば初めてシリウスと喋ったのは、この眠くなる魔法史の授業だった。 教室の扉に近い隅っこの席で真面目にノートを取っていたときだ、座っている椅子の後ろの方から人の声が聞こえて、振り向いてみたらシリウス達いつもの4人がコソコソと扉の方へと向かっている最中で目が合った。 「お前 名前なんていうの?」 「・・・・、です」 「よし、!」 「え?」 「俺ら今から授業抜けるから先生に見付かったら何か適当に言えよ!」 無理矢理、私に言い残して4人は教室を出て行った。今考えると都合よく使われたなあとか思うけれど、それがなければ今のこの片想い中の現実がないわけで。片想いが良いってわけではなけど、シリウスのことを好きな今は悪くはなかったりもする。 そう冷静に考えられる当たり、後ろにいる五月蝿い女子みたいに周りの状況が見えてません、なんて事にはなっていないから、 「私の恋は盲目じゃないんだよなぁ」 片想いのままこの恋は終わってしまう、っていう結果がちゃんと見えてるんだ。 (盲目になりたいよ こんちくしょう) その日の夜の大広間は、朝とは打って変わっていつも通りの静かで賑やかだった。 「あの・・・」 いつもの席に座って、いつものメニューをお皿にのせて、いつも通り口に運ぶ予定だったのに何故か私はシリウスの隣に居る。 「あいつら五月蝿すぎるんだよ」 「・・・あの」 「あ?ごめんごめん。 ん、ワッフル。食べたかったんだろ?」 「いや、そうじゃなくて」 「ああ、ラズベリーパイの方がいいって?お前デザートばっかじゃねぇか」 「・・・・私、いつも通りの食事を取りたいんですけど」 そう言って席を立ったら勢い良く腕を掴まれて、席を立てないこと、これで3回目。 「そう怒んなって。そうだ!お前も来るか?」 何に私を誘っているのか良く分からないので、頭の上に疑問符を浮かべるようにシリウスを見たら、シリウスは私の腕を引っ張って、大広間を早歩きで出た。ああ、女子の目が恐い。 着いた場所は一回も入ったことのないクィディッチ用の荷物が置かれた地下倉庫。電気を点ければ埃が舞っていた。 「今からこの箒に乗って夜の散歩に出よ「行ってらっしゃい」 箒を片手に真剣な顔で話すシリウスに、最後まで話させる暇もなく遠まわしに断って、部屋を出て行こうとしたら腕を引っ張られた。 「ということでお前も来ること」 「・・・はい?」 「ジェームズ達レポートやってて俺、暇で暇で」 「それとこれとどう私が関係あると・・?」 「何となく。ほら行くぞ」 片想い中の相手に散歩に誘われれば嬉しくないわけない。シリウスの隣で食事をとっていた時も心臓が張り裂けそうなくらい嬉しくて、今すぐにでも「好きです!」って言いたい気分だった。だけど流石に校則違反は出来ないよ。 そんな私の意志を無視してシリウスは夜空へと飛び立った。箒の後ろに私を乗せて(私、箒の二人乗りは苦手なのに!) 「シリウス 腕大丈夫なの?」 白い包帯はもう巻かれていないけれど、骨折してブラッジャーが当たれば安静が一番だというのに、この男は箒に乗って猛スピードで夜空を飛び回る。 「あのくらい日常茶飯事だろ。ビーターやってれば」 「私、試合最後まで見ないからビーターのこと良くわかんない、って、痛っ!」 急に箒が止まってシリウスの背中へと額をぶつけた。 「痛いなあ、いきなり止まるのは危ないって」 「お前なんで、いつも途中で帰んだよ」 いつもに増して低い声に体が一瞬強張って、声にならない声がでてくる。 「そ、れは その」 試合の後シリウスを囲む女子を見たくないから。なんて言えるか、そんなの告白と同じだ。 「まぁ色々と理由がね、あってね」 「今度の試合、今度の試合は最後まで見るよな?」 脅迫にも似た笑顔をシリウスは浮かべていた。 (私の気持ちも知らないで!!) 「あれ?ちょっと待って、シリウスは試合してるのに、何で途中で帰ったこと知ってるの?」 「見てれば分かるに決まって、ああ、なんでもない気に」 勢い良く言い出したかと思えば、途切れ途切れにどんどん声が小さくなっていって、最後の方は上手くごまかされてしまった。 「帰るぞ!!」 「え?ぎゃ!」 再び進みだした箒のスピードは、さっきと比べ物にならないくらい速くて落ちそうで正直怖い。 (今の、聞き間違いじゃないよね) シリウスの背中に額を当てれば顔に当たる風も収まった。 「ねぇシリウス 少し、 少し自惚れても良いのかな」 「聞こえねえ、何言ってんだ!?」 「何でもない、気にしないで」 にやけてしまう顔を隠すようにシリウスにしがみつく。シリウスの耳は真っ赤になっていて、思わず笑ってしまったら、「笑うな!」と怒られてしまった。 盲目になりすぎて、前が見えてないことすら見えてなくて 手が届くのに、届かないように見えてたみたい 「恋は盲目なんだって、シリウス」 << 恋はある意味磁石みたいなものかもね ほら、大好きなアナタがこっちに来た 08/08/14 加筆修正 |