R a i n i n g



曇り空の下、スカートが汚れるなんて細かいことを気にせず、地面に座り込んでいた。目の前で気持ち 良さそうに寝ているシリウスの寝顔を眺めてかれこれ30分経ったけれどシリウスが起きる気配は一向に 無い。このままにしていたら本当に此処で寝続けてしまいそうだ。だけど私も親切に「雨が降りそうだ よ」なんて言いながら起こしてやる気もさらさら無い。シリウスには悪いけど。


「男のくせに睫長いなあ、羨ましい」


閉じた瞼と長い睫、黒い髪と細い指。静かにしていれば造り物のような美少年なのに、動き出したら、 はっきり言って幼い子供と大差ない。だけど何でかシリウスには周りを惹きつける何 かが備わっているのだろう、することや考えることはどれだけ子供っぽくても、周りはこの男に惹かれ てしまうのだ。


「リーマスに全く頭上がらなくて、チョコで溢れかえった袋片手に持ってないと謝りに行くことも出来ない奴なのにね」


シリウスの前髪を指先で梳いてみたら、さらさらと零れ落ちた。何となくそれが気に入らなくて、人差 し指でシリウスの額を弾いたら、シリウスは小さく唸るように喉の奥で声を出して、ゆっくりとその瞼 を開けた。


「・・・お前、何やってんだ」
「それは私の台詞。こんな曇り空の下、外で良く寝れるよね」
「さっきまでは晴れてたんだよ」
「さっきまでって、もしかして30分以上前のことを言ってるわけ」
「ああ、もう、お前うるさい。というか、曇ってるから雨が降る前に俺を起こそうとか思わねえのかよ」
「・・・あ、雨降り出した」


地面に座り込んでいる私と、寝転んでいるシリウスの上に冷たい雨が落ちてくる。私達はあっという間 に水浸しになって、額にへばりついた髪をつたい皮膚の上を血のように線を描き流れる水が冷たかった。
シリウスも私も数秒雨を眺めて、はっと我に返ると走って校舎へと戻った。


「シリウスのせいだからね!ローブが重たくて歩けない!」
「大鍋2個も抱えて階段駆け上れるお前が歩けないわけがない」
「いちいちうるさいなあ。 あれ、杖がない! ああ、もうこれじゃあ乾かせないじゃない」
「おい」
「んー、何 って、痛っ!」


呼ばれて顔を向けた瞬間、シリウスが私の額を杖の先で軽く一回叩いた。ふわりと弱い風が吹いて濡れ ていた服や髪はあっという間に乾く。シリウスは杖を仕舞いながら私を見て、片方の口角だけ上げて笑った。


「お前のことだから、どうせ部屋にでも忘れてきたんだろ」
「哀しいことにそうみたい。あ、お陰様で歩けそうです」


乾いたローブをはたきながらシリウスにお礼を言えば、シリウスは満足したような笑顔を浮かべながら 「俺に感謝しろ」と偉そうに言った。なんだこいつは何様のつもりだ。


「絶対感謝してやんない」
「あーはいはい。あ、ほら行くぞ。もうすぐジェームズ達がマクゴナガル教授のお説教から帰ってくる」


そう言って私の手を引いて歩き出したシリウスを驚いて見上げたらシリウスと目が合った。状況把握が出 来ない私の顔を見てシリウスは片眉を下げて苦笑いして、繋いだ手の力を強めた。


「手、冷たすぎ」
「だ、だって雨に濡れたし・・・」
「ジェームズ迎えに行った後、寮に駆け込んで暖炉の前占領するからお前も走れよ」
「なんで私まで走んないといけないのよ」
「お前が寒そうにしてるからだろ」


相変わらず苦笑いのまま私を見たシリウスに面食らって私は急いで顔を逸らした。なんて猛毒を隠して 持っているんだこの男は。頭は悪くないし、ていうか凄く良くて、女遊びは少々度が過ぎているところ もあるけど、それはもう今更どうしようもないわけで。


シリウスの長い骨ばった指に掴まれた自分の手を出来れば離して欲しく無いと思う私はどうにかしている のかもしれない。


(ああ、貴方の香水の匂いと雨の匂いが混ざって頭が痛くなりそうだわ。)





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雨の匂いは頭痛を誘う