O n c e a g a i n シリウスが怒った。もとの原因はシリウスの浮気なのに。 自分が浮気したくせに、不貞腐れて机の上に座ったままのシリウス。金髪の可愛い顔した一つ年下の後輩は勝ち誇ったような顔してついさっき私の横を通り過ぎて行った。 「説明して」 「浮気きじゃねぇっつてんだろ」 何でコイツが怒るのかが分からない。怒る権利があるのは私のほうであって、シリウスには無いはずだ。 「浮気にいちいち怒るのも、だるいだけだから、別れちゃいましょうね」 「何で別れなきゃいけねぇんだよ」 「ああ大変! ジェームズとリリーの誕生日プレゼントを決めるんだったわ」 空き教室から出る寸前にシリウスに腕を引っ張られる。おかげで廊下へと出られなくってしまった。(何よこいつ!) 「おい、無視すんな」 「ペトリフィカス・トタルス!」 杖をシリウスの額に軽く当てて呪文を唱えた。体の動かなくなったシリウスは扉の前で突っ立ったまま。 「この後、マクゴナガル先生がこの教室使うらしいから」 その時に魔法を解いてもらったら?そう言ってシリウスに笑いかけて私は教室を出た。 (いい気味!) 「それで?」 「それでって、そのままよ」 寮の談話室でジェームズとリリーへのプレゼント候補を考えながら、シリウスことを話したら、ジェームズは目に涙を浮かべて大笑いした。 「って本当に最高だよ」 「悪戯仕掛け人には負けちゃうけど」 ジェームズが机に広げている忍びの地図には、未だに空き教室から一歩も動かないシリウスの名前があった。マクゴナガル先生は急用が出来て結局、空き教室へは行かなかったのだ。 「で、どうするわけ、この哀れな凶暴犬」 「私、もう彼女じゃないもの、そんなこと知らないわ」 「・・・・本当に最高だよ君って人は」 「褒め言葉として受け取っておくわね」 リリーへのプレゼントが花束と欲しがっていた本に決まったところで、ジェームズと別れて私は部屋へと戻ることにした。ルームメイトは他の部屋に行っているようで、私以外誰も居ない。とりあえずベッドの上に寝転んで図書室から借りてきた本を広げる。 「戻ってたの?」 「うん、今さっき。リリーは・・お風呂上りみたいね」 ドアが開いて入ってきたのは長い髪を濡らしたリリー。もうすぐ誕生日の彼女は私のルームメイトであり親友だ。 「シリウス、また浮気したんですって?」 「もう噂広まってるの?早いなぁ」 「お風呂から出たときに5年生の金髪の子が気取って言ってたのよ」 「何て?」 「シリウスが私を選んでくれたの、彼女とはもう別れるんじゃないかしらって」 あの金髪少女、黙っていれば可愛いのにお高くとまりやがって。 「女の勘って鋭いのね、私、シリウスと別れたから」 「それで良かったの?」 「気分は最高ね。 別れ際にペトリフィカス・トタルスかけてやったわ」 「そのわりには心ここにあらずって感じね。 本、逆さまよ」 ページを捲る手を止めて、文字を読んでみれば全く言葉になっていない。リリーが本を取って、「ちゃんと読んでないでしょ」と笑った。 「・・・読んでる」 「じゃあ主人公の名前は?」 「ローズ?」 「違うわ。 名前はケイトしかも男。 ねぇ早く行きなさいって」 ゆっくりとベッドから起き上がって苦笑いを浮かべるリリーを見上げる 「シリウスとは別れたのよ 関係ないわ」 「じゃあ金髪の子にとられていいの?一緒に廊下を歩いてても哀しくないの?」 「それは・・・」 正直、それは嫌だ。シリウスが廊下であの子を連れて歩いているところを見たら、きっと哀しくなるし、泣きたくなる。けれど、シリウスの浮気も充分哀しいし、泣きたい。ああだけど、一体どうすればいいのだろう。 「いい加減、魔法を解いてあげないと流石のシリウスでも危ないんじゃないかしら」 「あいつは死なないわ 少し体調が悪くなるくらいよ」 「そのときの看病をするのは金髪のあの子?」 追い討ちをかけるようリリーが言葉を続ける 「」 「・・・私、用事思い出したから ちょっと出てくる」 ローブを片手に持って部屋を出た。 (ちょっとした用事、うん、空き教室にちょっとした用事、ちょっとした、ね) 空き教室には鍵が掛かっていなくて、どうやらフィルチの見回りもまだのようだ。そっと扉を開くと中は薄暗くて、不気味で怖い。 「・・・シリウス、いる?」 棚に置かれたランプに火をつけて教室を見回してみると、シリウスの姿はどこにもなく、人の気配すら全く無かった。 「来る意味なかったみたいね」 そう言って苦笑いをしたつもりだったのに、何故か涙がでてきて、しかも止まらない。床にしゃがみこんだら、落ちた涙が何個も染みを作った。 (・・・なんで泣くのよ) シリウスは誰かに魔法を解いてもらって、今頃私に対して怒りながら、その憂さ晴しに、きっと誰かと遊んでいるんだろう。あいつの性格上ありえない話ではない。むしろありえる確立の方が高い。 「・・・・馬鹿みたい」 「ああ、お前は馬鹿だな。 馬鹿の中の馬鹿だ」 目の前が薄暗くなって、顔を上げてみたら、シリウスが薄ら笑みを浮かべて私と同じようにしゃがんでいた。 「なんで」 「お前のところ行ったら お前いねぇし」 「なんで来たのよ」 「この泣き面拝みに」 「最低」 顔を膝の上に乗せたら、膝が涙で濡れる。自分の意志とは反対に前へと体が傾いて顔を上げたら、シリウスの腕の中にいた。シリウスがいつもつけてる香水の匂いがする。 「・・・浮気、俺してないって」 「あれは、どうみても浮気よ」 「勝手にあいつが俺に告って人を押し倒したんだ 女って怖ぇ」 「あんたっていつから、そんなにか弱くなったわけ」 頭の上に顎をのせて、まだ泣き止まない私の背中を優しく叩くシリウス。お母さんみたいなことをするんだと思って可笑しくなった。 「俺は別れる気はねぇからな」 「別れちゃいましょうって私、貴方に言っちゃったのに?」 抱きしめる腕の力が少し強くなって、シリウスの香水の匂いも、もっと近くになった。 「そしたら、もう一回言ってやるよ」 「何て言うのよ」 「好きだから、俺と付き合って」 人の頭の上でシリウスが笑っているのが分かった。 「返事は?」 「・・・浮気しないなら、付き合っちゃいましょうか」 クツクツと腕の中で笑ったら、シリウスは声に出して笑いだす。 「おう、付き合っちゃってください」 教室から出て、一緒に手を繋いで廊下を歩いてたら、勝ち誇ったような顔をしていた金髪のあの子が目を丸くしていた。ちょっと悪い気もするけれど、まあいいか。 「シリウス」 「ああ?」 「あーやっぱ何でもない」 だって、もう一回同じことを言ってて言ったら、シリウスは怒って、この繋いだ手も離してしまいそう。ああ、でも今度は不貞腐れるんじゃなくて照れるのかな。 『好きだから、俺と付き合って』 その言葉、もう一度お願いしてもいいかしら? << もう一度、もう一度 怒ったりしないで ねえ、もう一度 2006.2.2 加筆修正 |